魚類繁殖記録プロジェクトとは

 

 魚類繁殖記録プロジェクトでは,沿岸域に生息する魚類が,いつ,どこで,どのように繁殖していたのかフィールドで観察された記録を収集しています。収集した記録を解析・検証することにより,次の3つの点を明らかにすることを目的としています。

 

(1)沿岸性魚類の繁殖期と繁殖域を解明する

(2)繁殖期と繁殖域の変化を数十年単位で捉えて地球温暖化の影響を評価・予測する

(3)これまで繁殖が知られていなかった魚の詳細な繁殖生態を解明する

 


 1970年代になりSCUBAが一般に普及するようになると,レジャーやスポーツ,学術調査などさまざまな分野で広く活用されるようになりました。SCUBAによって海中で長時間滞在することが可能になったことから,魚類生態学の分野では,フィールドで魚を直接観察して繁殖行動を明らかにする研究がさかんに行われるようになりました。

 魚の繁殖行動を明らかにする上で,まず最初におさえるべきもっとも基本的なことは,

   1.どの魚が

   2.いつ

   3.どこで

   4.どのようにして繁殖しているか

   5.その時の水温

  という5点です.具体的に例示すると,

   1.スズメダイが

   2.2012年6月10日午前11時13分に

   3.千葉県勝浦市吉尾水深12mの岩礁で

   4.雌雄がペアで放卵・放精した

   5.20.8℃

  ということです。たった1回の観察記録でも,その魚の繁殖生態を理解する上で重要な意味を持っています。すなわち,この観察記録はタイムマシーンでも発明されない限り,後からは絶対に入手することができないのです。後になって,昔あの場所で○○が繁殖していたか知ろうと思っても,その時の記録が残っていなければ知る術がないのです。

 この観察を同じ場所(エリア)で1年間続けるといろんなことがわかってきます.

   1.スズメダイは

   2.2012年6月10日から8月22日にかけて,午前10時21分から午後3時18分の間に

   3.千葉県勝浦市吉尾水深8~15mの岩礁で

   4.ペア産卵が観察された

   5.水温19.8~26.3℃

 このように,観察を1年間続けることにより,繁殖期,産卵時間,水深帯,産卵時の水温が明らかになります。さらに観察を毎年積み重ねると年変動がわかりますし,長年(概ね30年以上)続けると海水温の上昇が魚類の繁殖に与える影響について明らかにすることができるようになります。

スズメダイ♂の卵保護

アミメハギ♀の卵保護

コガシラベラの群れ産卵